ある日、ママ友からLINEが届きました。
「ちょっと相談があるんだけど、二人だけで会えない?」
ん? なんだか嫌な予感……。
当時の私は、介護認定を受けた父の世話でバタバタ。
ちょうどその日に体調を崩した父を病院へ連れていくことになり、
やむなくママ友との約束を延期しました。
そのとき、なんとなく気になってLINEで要件を聞いてみました。
すると返ってきたのは、
「すごい話があるの!」
「一緒にやりたいビジネスがあるの!」という返事。
あぁ、やっぱり……。
ピンときた。——ああ、これはネットワークビジネスの誘いだ。
実は私も経験者
案の定、健康食品のネットワークビジネスでした。
彼女は疑うことなく、どんなにすごいか力説してくる。
すっかり洗脳されているわ。
なぜ、偉そうにこんなことを言うかといえば、
私もかつてどっぷりハマった経験者ですから。
時はバブル絶頂期の1985年ごろ。
友人たちは証券会社などに勤め、
「ボーナス60万円も出た!」なんて景気のいい話をしていました。
その一方で、私は手取り10万円ちょっと。
「私もお金がほしい」「豊かになりたい」と、
いつも思っていました。
そんなとき、大学時代の親友から
「いいセミナーがあるから一緒に行かない?」と誘われたのです。
どんな内容か聞いても教えてくれず、
「行けばわかるから」と言うばかり。
少し不思議に思いながらも、親友の頼みとあって一緒に参加しました。
熱気と興奮に包まれた“セミナー”
行ってみると、それは健康食品のセミナー。
最初は「親友が騙されてるんじゃないか?」と思っていた私。
親友を止めさせるつもりで話を聞いていたはずが、
壇上で熱く語る人たちのエネルギーにすっかり引き込まれてしまい、
セミナーが終わるころには
「私もやる!」と言っていたのだから笑えません。
これではまるで
ネズミ捕りがネズミになった
ん?
ミイラ取りがミイラになる?
今思えば、これが“洗脳”ってやつでしょうね。
そのセミナーには巧みに、夢・自由・高収入など“希望”をうまく刺激する仕組みがあり、
「努力次第で誰でも成功できる」という言葉の魔力をかけられ、
ちょっと頑張れば手が届くような錯覚を抱かせるようなものでした。
これにまんまと引っかかってしまった若かりし私……。
誘うのが怖くなった
意気込んで始めたものの、いざ友人を誘おうとすると言葉が出ない。
「迷惑かな」「怪しまれないかな」と躊躇してばかり。
そんな私に、組織のトップ(代理店と呼ばれていました)が言いました。
「正直に言うからダメなのよ。“お茶でもどう?”って言えばいいの」
なるほど、と思ってしまった私は、
正直に話せず、“お茶”と称して友人を連れ出すように。
冷静に考えれば、それは友人を騙している行為。
心のどこかで「これは違う」と思いながらも、やめられなかった。
案の定、「もう声をかけないで」と絶交され、友人を失いました。
理想と現実のギャップを見せつけられた瞬間です。
残ったのは健康食品の山だけ
私のようなガラスのハートだと、いちいち心を折られることばかり。
友人や家族を巻き込む誘い方に葛藤が生まれているのに、
自分のやっていることを正当化しなければ前に進めない。
どこか後ろめたさを感じながら誘うのって、相当なストレス。
稼ぐどころか、心がすり減っていく感覚でした。
1年ほど続けた結果、
得たのは自分で買った健康食品の山と、
失った信頼だけでした。
取り戻すまでに、本当に長い時間がかかりました。
ネットワークビジネスは、心臓の強い人向き
情熱があって、人を誘うことをためらわない人なら
成功できるのかもしれません。
でも、私のように少しでも「後ろめたい」と感じる人には、
きっと向かない世界です。
ネットワークビジネスは簡単に稼げる世界ではありません。
「儲かっている人」はごく一部。
頂点に立っている人だけが潤うシステムです。
あのときの“代理店”の方々は、今どうしているのかな。
おそらく、もう続けていないでしょう。
友人へ、そして昔の自分へ
ママ友の姿を見て、 ふとあの頃の自分を思い出しました。
あのときは信じていた。
「努力すれば夢が叶う」「みんなで成功できる」って。
でも、現実はそんなに甘くなかった。
そして、何よりつらかったのは、
“人間関係を壊してしまった”こと。
だから今、伝えたい。
簡単に稼げる道なんてない。
でも、誠実に積み重ねたものは、必ず自分を助けてくれる。
これにハマってしまうあなたは、
きっと情熱があって、
やる気に満ち溢れていて、
野望がある方なんでしょうね。
しかし、
ネットワークビジネスの道は、思っている以上に険しい。
どうか、あなたは迷わないで。